歯車式ぼうるばん
【ボール盤】
碌々商店製
今では「ボール盤」と言われるものです。ボール(ballでなくbore、穴を開ける)を、平仮名で「ぼうる」と表したのは、球技用の「ボール」と間違われないようにしたのかもしれません。歯車式と記載されているように、簡易なベルト式変速でなく大馬力にも耐えるように歯車式変速部になっています。またテーブルは自転し、かつ上下だけでなく主軸周りに公転できるようになっています。作られた時の意気込みを感じます。ちなみに碌々商店は機械工具類の輸入販売から始まり、明治45(1912)年に自社製品の製造・販売を始めたとあります。製造番号は「0004」とされていますので、4台目かもしれません。いまでは微細加工機で有名な碌々産業の創業会社です。銘板が碌々商店製作部となっているのは商社部門と分けるための意気込みと思われます。
老練旋盤
【汎用旋盤】
池貝鉄工所製
国産初の旋盤を作った老舗中の老舗です。ここにある旋盤には、今でいう安全カバーはなく変速用歯車や伝導用革ベルトが剥き出しになっていますので、時代が判ろうかという代物です。カタログには、古い言葉遣いで漢字カタカナ文で次のように記されています。「本機ハ全歯車伝導小型エンジンレースニシテ、簡易ヲ旨トセル実験室、修理工場、一般 工作工場向トシテ賞用サルベキモノトス。」単独のモータを備えており当時としては高級機であったと思われます。付属品・備品が数多く残っており、かなりの長い間ここで重宝されて使われていたと思われます。安全カバーを追加して、動態保存しております。
舶来フライス盤
【横型フライス盤】
シンシナティマシナリー社製
シンシナティ(Cincinnati)ブランドは、世界に誇る米国の工作機械メーカーでした。当時のみならず戦後も国産メーカーにとって長い間仰ぎ見る存在でした。鋳物製造技術をもとに多くの工作機械を作っていましたが、その1つがこのフライス盤です。ほとんどの部分が鋳物で作られ、剛性の高い構造となっています。例えば駆動部のカバーは美しい丸みを帯びた、本体と一体的につながった形です。そしてモーター動力を主軸に伝える電動要素として、サイレントチェーンが使われています。サイレントチェーンは最新エンジンのカムシャフト部に使われている高級部品ですが、この時代にすでに使われていたとは、驚きです。加工テーブルを上下・左右・前後に動かす機構は今でもハンドルで軽く動かせます。当然現役としても使えます。銘板に数多くの特許で守られていると誇らしげに書かれています。間違いなく当時の世界最高峰の工作機械であったろうと思われます。付け加えるならば、昭和15(1940)年には米国からの工作機械が禁輸になっております。まさに戦前にこの時期にかような工作機械がここ阿武山観測所に導入されたことは、ここを設立するにあたっての思い・熱意が感じられます。