阿武山地震観測所は、京都大学の研究施設として1930年に設立され、以来90年の長きにわたって、世界の地震研究をリードしてきました。2009年からは、歴史的地震計および最先端の稠密地震観測計画である満点計画を活用した地震サイエンスミュージアムとして活動してきました。
この間、市民のボランティア有志が「阿武山サポーター」、「阿武山グリーンクラブ」として組織化され、ミュージアムのガイド役や環境整備スタッフとして独自の活動を展開するに至りました。ここ数年、年間約70日のイベントを実施し、2000人を越える来場者を迎えています。活動は観測所内にとどまらず、子ども向けの地震の工作実習や一般向けの防災講演を依頼されるまでに至っています。さらに、2018年に発生した大阪府北部地震の余震観測、地震波形データの読み取り等、最先端の地震観測研究においても大きな役割を果たしています。
このような活動は、専門家だけでなく広く市民も巻き込んで、社会全体として科学を進めようとする活動、いわゆる「オープンサイエンス」の運動とシンクロするものです。特に、近年、地震防災科学をめぐる社会と科学の乖離、市民と科学者の間の距離が大きな社会問題となっています。このような中で、「オープンサイエンス」を基軸とする阿武山の活動の重要性はますます高まりつつあります。
阿武山古墳に隣接し大阪平野を一望することができる建物は、2007年に「大阪府近代化遺産総合調査報告書」で「注目すべき近代化遺産」として掲載され、映画「プリンセス・トヨトミ」のロケ地となるなど、建築物としても大きな注目を集めています。このように、観測所は、自然環境、建築、歴史・考古学など多様な観点から多くの人びとの注目を集めてきました。
上記の経緯を踏まえ、これまで任意団体として実践してきた活動や事業を、阿武山観測所が所属する京都大学防災研究所、高槻市などの地元自治体や市民団体、他のミュージアムなど関連団体との関係を明確に位置づけ、より組織的な連携のもとに、地震防災科学における「オープンサイエンス」運動を推進し、その拠点としての観測所を周辺環境を含めて保全する必要があるとの観点から、この度、NPOを設立するに至りました。
NPO法人化によって、これまで展開してきた活動や事業の安定化を図り、地震防災科学を市民とともに歩むサイエンスとして推進するための活動をより精力的に行ってゆきたいと考えています。多くの皆さまのご支援・ご協力を切に願うとともに、ともに活動してくださる方を歓迎いたします。
2021年7月
特定非営利活動法人 阿武山地震・防災サイエンスミュージアム
理事長 飯尾 能久